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仙台高等裁判所 昭和29年(ナ)2号 判決

原告 村田辰美

被告 青森県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「昭和二十九年二月十一日施行の青森県下北郡大畑町町長選挙の効力に関する訴願につき被告が昭和二十九年六月七日にした訴願棄却の裁決はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和二十九年二月二十一日施行された青森県下北郡大畑町町長選挙の選挙人であつて同年三月六日同町選挙管理委員会に対して右選挙の効力に関し異議を申立てたところ、同年四月四日右異議申立は却下されたので更に同年四月十日被告に訴願を提起したがこれまた同年六月七日棄却された、然しながら右選挙は次に述べる理由によつて無効と云うべきであるから原告の右訴願を棄却した被告の前記裁決は違法なるものとして取消を免れないのである。即ち、

(一)  本件選挙施行に際し第十投票所においては選挙管理者側により以下列挙の如き違法な措置がとられた。

(1)  投票開始前に投票箱が空虚であることを選挙人の面前において示すことなくこれに封印した。

(2)  右投票所投票管理者畑中末松は選挙人たる松本しゆんに対し同人が投票用紙の交付を受ける際何事をか言含めてそのまま帰宅せしめ同人が約三十分後再度投票所に来るやあらためて同人に投票用紙を交付して投票せしめた。これは選挙人の自由意思を抑圧し特定の候補者に投票すべく指示したものである。

(3)  同投票所においては十二名の代理投票があつたに拘らず投票録には右の中六名につきその旨の記載が為されているに過ぎない。

(4)  同投票所においては同一人が投票立会人と代理投票の補助者を兼務したのであるが、かようなことはその職務の性質上許されないものと解すべきである。従つて右投票所の場合のように投票立会人が代理投票の補助者となり残りの投票立会人が法定最小限の三名に達しない場合には投票立会人を補充すべきであるに拘らずかような手続を経ずして行はれた前記代理投票は公職選挙法第三十八条第二項の規定に反する違法のものである。而して同投票所で右の如き事情の下に為された代理投票の総数は十二票であるところ本件選挙における開票結果は後に述べるが如く当選者と次点者との得票差が僅に六票に過ぎなかつたので右代理投票総数は遥にこれを超えるものであるから右違法が選挙の結果に異動を及ぼすおそれのあるものなることは極めて明白である。

(5)  右投票所では右投票管理者が投票終了後投票箱の鍵を封筒に入れず且つ封印することもなく同投票所事務従事者畑中長太郎、同畑中了二、同岡一夫の三名に所持させた。

(6)  同投票所投票管理者畑中末松は投票終了後投票箱を開票所に送致するに際し自身又は投票立会人の何人をも送致に当らせず同投票所事務従事者たる前記三名が投票箱を送致したのであるが、これは公職選挙法第五十五条の規定に違反する。のみならず右送致人等は送致の途中投票箱を畑中了二の自宅に搬入し開票予定時刻の約一時間後にようやくこれを開票所に送致した。

(7)  同投票所においては選挙人畑中まさの氏名が選挙人名簿から脱落して居り「畑中きさ」なる氏名が同名簿上に記載あるところから投票管理者及び立会人全員が協議の結果「畑中きさ」は選挙人畑中まさの氏名の誤記と確認し、同人に対し仮投票を為さしめたのであるが、開票の際右仮投票用紙は存在せず何れえか紛失していた。右は開票前に何人かによつて改ざん 乃至破棄されたものとみられる。

以上(1)乃至(3)及び(5)の所為は右第十投票所投票管理者畑中末松が特定の候補者を当選させるため故意にしたものである。

(二)  第六投票所においても次のような違法行為があつた。

(1)  投票開始前投票箱が空虚であることを選挙人の面前において示すことなくこれに封印した。

(2)  選挙人岩渕義春の氏名が選挙人名簿上抹消されていたため同人は投票を為し得ず帰宅せしめられた。これは故意に同人の投票を拒否したものである。

(三)  選挙人木村吉太郎及び同木村かよ(吉太郎妻)は八年前から大畑町新町に居住し昭和二十八年に施行された衆議院議員選挙及び大畑町議会議員選挙においては新町の投票所なる第四投票所に属する選挙人名簿に登載され同投票所で投票できたのに本件選挙では選挙人名簿から脱落していたため遂に投票できなかつた。選挙終了後右脱落の原因を調査したところ右両名は第二投票所に属する選挙人名簿に登載されていることが判明したが、これは故意に特定の候補者を不利ならしめるための工作によるものと云わなければならない。

以上の次第で本件選挙の施行に際してはその管理上前記の如き種々の公職選挙法に関する違法があり、しかも本件選挙は菊地察明、菊地桑吾、高田正治の三名が立候補したものであつたところ本件訴願裁決の結果被告選挙管理委員会は右三名の得票数を菊地察明二千百八票、菊地桑吾二千百二票、高田正治千四百九十四票として菊地察明を当選者としたが、被告委員会が雑事記載の理由により無効とした「うど」と記載のある一票は「そうご」と記載したもので菊地桑吾に投票したものである、又「菊地桑吾」と記載してその氏名の周囲を線でかこんだものを被告委員会は他事記載の理由により無効としているが公職選挙法第六十八条第一項第五号にいわゆる他事記載とは投票に意識的に符合となるような記載をして何人がその投票をしたかを他人に知らせよつて投票における秘密保持を妨げようとする有意的なものをさすと解すべきであるから右の如きものをも無効とする趣旨ではないといわなければならない。更に被告委員会は「キクツ」と記載した一票を菊地察明、菊地桑吾の何れに投票したか不明なりとし両者に按分すべきものとしたが右は「キクソー」即ち菊地桑吾に対する投票として同人の得票に加うべきものであるから結局当選者と次点者の得票差は僅に三票に過ぎないこととなる。かような場合において前記の如き各違反が選挙の結果に影響を及ぼすことは極めて明白であり、従つて本件選挙は無効であるに拘らず原告の前記訴願を棄却する旨の被告のした裁決は違法であつて取消を免れない、と述べ、被告の主張に対し、

(1)  第十及び第六投票所において投票開始前投票箱が空であることを選挙人に示さなかつた点について被告委員会は右事実を認めながらも右は単に規定の趣旨の誤解に基く従前の慣行を踏襲したに過ぎないのみならず投票立会人全員立会の下に投票箱に封印を施したのであるから不正行為があつたとする原告の主張は単なる憶測に過ぎないと強弁するが公職選挙法施行令第三十四条の趣旨は選挙人中第一番に投票する者がその投票を投票箱に投入する前に投票箱が空であつて予め不正の投票が入つているようなことのないことその他箱の中に何も入つていないことを右の者をはじめ既に投票所内に来ている選挙人に示しもつて選挙の公正を担保しようとするための重要な規定であることは明らかで、たとい投票立会人が選挙人であるからといつて投票立会人等となした投票箱の点検を以て右の手続の代用をなすものとしてこれを省略することは許されないのである。しかも第六投票所においては一部投票立会人(大久保サクラ)が未着でありしかも投票開始予定の午前七時以前に既に選挙人が投票所に到着していたに拘らず全くこれを無視して選挙人不知の間に封印を施して居り第十投票所においても投票立会人が集まらないうちに選挙事務従事者のみで封印を施しているのであるからこの点に関する被告の抗弁は理由がない。

(2)  第十投票所における投票箱の搬送及び鍵の措置について被告は手続上の違法を認めながら何等の不正事実がないからこれを無視して差支えないとする。然しながら被告の主張する畑中了二方に立寄つたのが僅々十七、八分に過ぎないとの点も開票所に到着した時刻とにおいてすら約三十分の開きがある点、当日の天候等に対する被告の主張等よりすれば単に被告のいう如く係員の無経験の故として葬り去ることはとうてい許されない。

(3)  およそ公職選挙法第二百五条にいう「選挙の結果に異動を及ぼすおそれある場合」とは選挙の結果に異動を及ぼすことが確実である場合に限らないことは勿論であつて、違法の程度が軽微であり異動を及ぼすおそれのあり得ないことが十分推察される場合は格別、本件のように選挙の公正を担保するための公職選挙法の規定を無視して為された場合は特に異動を及ぼすことが絶対になかつたことを被告において立証し得ない限り異動を及ぼすものとして選挙を無効とすべきである。と述べた。

被告代表者は主文同旨の判決を求め、答弁として、

(一)  請求原因(一)の(1)について。第十投票所(小目名)において投票開始前投票箱に封印を施すに際しては同投票所投票管理者職務代理者畑中長太郎が先づ投票箱の蓋を開きその空虚なることを確認し、次いで投票管理者畑中末松がこれを点検した後右畑中長太郎は投票立会人全員に対し投票箱の点検を依頼すると共に投票所内の整備に当つたところ、投票立会人中畑中貞次郎はこれを点検したが他の投票立会人は夫々その席に居たので右畑中長太郎が該投票箱に適宜の用紙をはりつけこれに投票立会人全員が封印を施したのである。投票箱に対する右の取扱は特に今回に限つて行つたものではなく従前からの慣行に従つたものであつて、その封印を急いだのは午前七時の投票開始時刻迄に投票箱に完全に封印を施す必要に迫られたためである。しかも前述の如く右選挙事務関係者が該投票箱の空虚なることを確認した上でこれに封印したのであるから原告が主張するように全然これを見ないのではない。仮に右事務取扱手続上少しく欠くるところありとしてもこの間に不正行為が介入した事実はないのであるから原告の主張は単なる憶測によるもので理由がない。

(二)  請求原因(一)の(2)について。第十投票所の投票管理者畑中末松は選挙人松本しゆんの実子であるので同投票所において同選挙人に対して私事を語つたことのあつたことは認められるが、原告の主張するような同選挙人の自由意思を抑圧して特定の候補者に投票するように指示したことはない。原告のこの点に関する主張は当選の効力に関する問題で選挙の効力に関するものではない。

(三)  請求原因(一)の(3)について。第十投票所において代理投票をした者は十一名、即ち山田ヨコ、柏谷ヤス、米田ヤス、杉林ミヱ、北上カメ、畑中春信(以上六名は投票録に記載)上原子さだ、柳なか、北上イト、山本キヨ、山田サダ(以上五名は投票録に記載洩れ)であつて柏谷ヤスは投票をしていないことが判明した。而して右のように投票録に記載洩れとなつた五名の代理投票者があつたことはこれを認めるが、これは同投票所における事務取扱係員の粗漏に基くものにすぎずその間何等不正行為の介入した事実は認められないのであるから、右の一事を以て直にその投票の効力に影響を及ぼすものと認めることはできない。

(四)  請求原因(一)の(4)について。第十投票所の投票立会人は四名でその中の一名は代理投票の記載従事者となつたのであるが、仮に投票立会人の一名が代理投票の記載に従事したことが違法であるとしても同投票所における他の投票立会人は法定の三名を欠くことがなかつたのであるから原告の主張は理由がない。

(五)  請求原因(一)の(5)について。投票管理者畑中末松が投票箱閉鎖後その鍵を投票管理者職務代理者畑中長太郎に交付し同人はこれを小封筒にいれ糊付をしたがその封筒に関係者の封印を施さないまゝ保管したことはこれを認めるが、このことは係員が選挙事務に経験の浅いためかような保管方法をとつたもので故意に封印をしなかつたわけではない。

(六)  請求原因(一)の(6)について。投票終了後投票箱の送致については右投票所投票管理者畑中末松は本件選挙施行当日昼頃から腹痛を起していたので投票箱の送致について投票管理者職務代理者畑中長太郎に対してその職務の代理を行うよう指示し、各立会人に対しては右投票管理者及び係職員たる畑中長太郎と畑中了二から送致立会人となることを依頼したところ、当日は折悪しく天候不良のため何れもこれに応ぜず、結局同投票所の投票立会人四名の中からは送致立会人となるものはなかつたのである。従つて該投票所の投票箱は投票管理者職務代理者畑中長太郎、同事務従事者畑中了二、同岡一夫の三名によつて選挙長に送致されるの止む無きに至つたのである。而してその送致に当り右三名は投票所閉鎖直後午後六時三十五分頃出発し開票所に向ふ途中右投票所から約二丁距てた地点にある畑中了二宅に立寄つたことは事実であるが、その理由は右畑中長太郎及び岡一夫の両名は前記同所に宿泊したのでそこに預けておいた身廻品(オーバー、洗面具等)を持去るためでありこの間畑中了二は投票箱送致のための身仕度を整えしかる後同家から右三名は徒歩で選挙会場に向いその送致を了した。原告は右投票箱の送致が著しく遅延したと主張するが、投票箱を投票所から搬出したのは前記のとおり午後六時三十五分頃で投票所の存する部落から選挙会場たる町役場迄の里程は約一里であるが冬季の悪路を投票箱を背負つて徒歩で行くので四、五十分を要し更に役場到着後投票箱の搬出その他関係書類等の調査に約二十五分位を必要とするところ本件選挙に関して作成された選挙録に依れば右選挙会の開始は当日午後八時三分と記載されているので結局前記三名が畑中了二宅で費した時間は約十七、八分に過ぎない。しかも選挙長は投票箱の送致を受けてこれが異状の有無を点検したところ些の異状も発見しなかつたのであるから結局前記の事情の下においてもその間何等の不正事実の介入はなかつたものと云わねばならない。

(七)  請求原因(一)の(7)について。第十投票所において当初仮投票が一票存したことは事実であるが、右投票管理者職務代理者畑中長太郎等が右投票所の投票箱及びその関係書類等を送致してこれを選挙長に引渡す際右仮投票の行われた事実とその理由について説明したところ選挙長小林善治は右は公職選挙法第五十条の規定する仮投票に非ずと断定し該投票を一般投票として処理すべものきであるとし、投票録を訂正せしめると共にその点を開票台主任たる佐々木亮光に指示したので畑中長太郎は右選挙長及び佐々木等の面前で前記投票箱の開箱直後前記仮投票在中の封筒を発見してこれを開披したる上一般投票に混入したのである。ただ右投票は一旦前記投票管理者から仮投票として送致されて来たものであるから選挙長としては公職選挙法第六十六条第一項の規定によつて処理すべきであつたのではあるが、事実投票の総数は合致しているのであるから右の処置があつたからといつて原告が主張するように前記仮投票が紛失或いは改ざん若しくは破棄されたということはないのである。

(八)  請求原因(二)の(1)について。第六投票所においては投票当日午前六時四十五分頃同投票所投票管理者新宮喜一、同職務代理者伊勢田才次郎投票立会人成田重三郎、同長津林吉、同大久保サクラ及び投票事務従事者四人で投票箱の空虚なることを確認した後右関係者全員の面前において右伊勢田才次郎と成田重三郎他一名が投票箱の四隅に紙を貼りこれに投票立会人全員の割印をして封印を施したのであつて原告主張のように投票箱の空虚なことを確認しなかつたというような事実はない。

(九)  請求原因(二)の(2)について。第六投票所に属する昭和二十八年九月十五日現在を以て調製された基本選挙人名簿によれば第二〇番に岩渕義春と記載されて居り第七五一番黒滝義春とある部分はその欄に線を引いてこれを抹消する旨の記載のあることは明らかである。その抹消の理由は黒滝義春が戸籍簿上昭和二十八年八月十日大畑町大字大畑字湯坂下五番地四号岩渕太郎夫婦の養子となり同時に右岩渕太郎の娘岩渕ミヨと婚姻届出をした旨の記載があるので選挙人名簿上これを訂正したのである。而して投票当日出頭した黒滝義春に対しては投票所受付係新岡みつが右訂正の事情を申向け更に同投票所の投票管理者及び立会人等からも岩渕義春として投票すべき旨を慫慂されたにも拘らず右黒滝は旧姓でなければ投票しないと主張して自ら投票所を退出したのであるから原告の主張は全く理由がない。

(一〇)  請求原因(三)について。大畑町選挙管理委員会においては昭和二十八年九月十五日現在による基本選挙人名簿調製に当つて「選挙人名簿登載申請書」を各世帯から提出させこれを戸籍簿又は住民票、配給台帳等と対照してその調製に万全を期したのであるが、選挙人木村吉太郎及び同人妻かよ両名に係る右選挙人名簿登載申請書中現住所の欄にその字名が記載されて居らず且つ配給町名欄「上野町」と記載されていたのでこれを各投票区別に分類整理するに当り右配給町名欄に記載された「上野町」を同町第二投票区の区域である同町字上野と錯誤したものであり、又同地区には木村の姓が多いので右両名に係る申請書を第二投票区に属するものとして処理しこれによつて同年の基本選挙人名簿を調製したために右両名がその現住する町名と異つた同町東町として登載されるに至つたものである。以上の次第であるから決して原告の主張するように特定の候補者を不利ならしめるために工作されたものではないのである。と述べた。

(証拠省略)

理由

原告が昭和二十九年二月二十一日施行の青森県下北郡大畑町における町長選挙の選挙人であること、及び原告は右選挙の施行管理については公職選挙法に反する違法ありとして同年三月六日同町選挙管理委員会に対して右選挙の効力に関して異議を申立てたところ、同年四月四日右異議申立が却下されたので更に同年四月十日被告に訴願を提起したが同年六月七日これを棄却されたことは被告において明らかに争わないところであるからこれを自白したものと看做すべきである。

よつて以下原告主張の当否につき順次に判断を加える。

原告主張事実(一)の(1)について。

本件選挙施行に当り第十投票所において投票管理者が投票箱の空虚なることを選挙人に示さなかつたという原告の主張についてはこれに副う甲第一号証の一、二は証人畑中末松、岡一夫、畑中貞次郎、長利長七の各証言に対比するときは措信できず、他にこれを認めしめるに足る証拠がなく却つて右畑中貞次郎の証言によれば選挙人畑中貞次郎が点検したことが明であるから原告の主張はこれを採用するを得ない。

同(一)の(2)について。

この点に関する原告の主張は松本しゆんのした投票の効力に関する問題であつて元来選挙自体の一部若しくは全部の効力の問題ではないから選挙の効力を争う本件における請求原因たり得ないものと云わねばならないばかりでなく原告の主張するような事実を認めるにたる証拠はない。

同(一)の(3)について。

この点に関する原告の主張は被告も認めるところがあるが、元来代理投票の管理に関する違法は選挙の効力に関する争訟の理由とはならないのである。代理投票が適法な方式によつて行われなかつたとしてもそれは当該個々の投票の効力に影響を及ぼすに止まり選挙の全部又は一部の無効を来すものではないからである。従つてこの主張も本件請求原因たり得ないものである。

同(一)の(4)について。

投票所において同一人が投票立会人と代理投票の補助者を同時に兼務することはその職務の性質上許されないものと解すべきである。然しながら被告は第十投票所において右の事実のあつたことを認めただ同投票所における投票立会人は四人居てその中の一人のみが代理投票の補助者を兼ねたに過ぎず結局立会人は法定の三名を充足していたから違法はないと主張しているのである。従つて原告としては果して被告の答弁どおりか否か即ち兼務者は二人以上あつたか否かを明かにすべきであるがこの点に関しては原告においてなんら明確な主張も立証もしないのであるから前記主張も採用の限りでない。

同一の(5)について。

原告主張事実は被告の認めるところである。然しながらかような事実は未だ以て選挙を無効ならしめる程の違法とは為し得ないから原告の主張は理由がない。

同(一)の(6)について。

第十投票所の投票箱が開票所に送致されるに当り投票管理者及び投票人が送致に立会はなかつたこと及び右投票箱の送致の遅延した事実はいずれも被告の認めるところである。この点に関する右投票所の投票管理者、投票事務従事者等の事務取扱いは誠に粗漏を極め違法のそしりを免れ難いのではあるが、公職選挙法第五十五条は閉鎖した投票箱及びその内容に送致の途中異変を生ずるが如き事故の発生を未然に防止せんがために特に送致方法を鄭重にしたものに外ならないからその規定に違背し送致の途中一時投票管理者及び投票立会人の管理を離脱したことがあつてもその投票箱の外部及び内容に異変を生じたことが認められない限りはこれを以て選挙の無効を来すべきものではないと解するを相当とするところ、成立に争のない乙第一号証の三、四、証人小林善治、岡一夫の各証言を総合すれば右投票箱は開票所に到着した際選挙長においてこれを点検したところなんらの異常もなかつたこと、送致人であつた畑中長太郎、岡一夫等が畑中了二方に立寄つて過した時間は僅々十数分に過ぎず而もその間三人のうち一人が投票箱を監視していたこと等が認められるから前記違法は未だ以て本件選挙を無効ならしめるには至らぬものと云うべきである。従つてこの点に関する原告の主張も採用の限りでない。

同(一)の(7)について。

この点に関する原告の主張事実はその仮投票の効力に関する問題に過ぎないのであつて選挙の効力に関する問題ではなく主張自体理由がない。

同(二)の(1)について。

この点に関する原告の主張事実はこれを認めしめるに足る証拠がない。

同(二)の(2)について。

成立に争のない乙第一号証の一、二を総合すれば、黒滝義春は戸籍簿上岩渕太郎と養子縁組届出をした旨の記載があるので選挙人名簿上黒滝義春と一旦記載されたものが抹消され新たに岩渕義春と記載し直されたものであつて同人が投票所に出頭した際受付係新岡みつその他投票立会人等から右事情を説明され岩渕義春として投票すべき旨をすすめられたにも拘らず同人はこれを拒否したことが認められるのであるから原告の主張は全く理由がない。

同(三)について。

この点に関する原告の主張はその主張自体において選挙人木村吉太郎及び同木村かよが選挙人名簿の登載箇所を大畑町選挙管理委員会係員の錯誤によつて取違えられたに過ぎないことが明白であるから、特にこれが何人かの為にせんとする意図に基く不法な工作であるとせば原告側においてこれが立証を尽すべきであるに拘らずこの点に関してはこれを認めしめるに足る証拠がない。

以上の次第で本件選挙が無効であるという原告の主張はこれを認めることができないから原告の訴願を棄却した被告の裁決は結局相当であり、従つてこれを違法なりとしてその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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